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朝日新聞1995年4月19日夕刊「私の一冊」より




「根気こそ天才」に感銘
劇作家・女優 渡辺 えり子

根気のない子供だった。
飽き性で落ち着きがなく、何をやっても三日坊主で、ピアノも習字も結局親に月謝を払ってもらうだけという、今なら後ろからはたいてやりたくなるような子供だった。全部自分の意志で始めて飽きるのだから、だれのせいにもできない。

日記だって、毎年今年こそはと始めても、本当に三が日の後は白紙状態で、紙質がよいからもったいなくてメモ用紙にもできずに困っている。

それが、戯曲を書いたり、演じたりという今の仕事だけは、高校時代を含めると二十五年も続いている。劇団だって、十八年目に突入した。
どうしてこんなに根気が出たのか、これはただ好きなだけではない気がする。

高校時代、エドガー・アラン・ポーの「根気と天才について(?)」というエッセーを読んだ。

「天才は数限りなくいる。しかし、その天才から出た仕事を続けられる人は少ない。みんな根気がなくて、天才を発揮できずに終わる。根気こそが天才なのだ」

というようなことが書かれていて、当時の根気のない私はひどく感銘した。そして、興奮し、納得した。
そう言えば、ピアノも習字も習いたては天才だった。続けなかったからできないだけなのだ。戯曲を書き始めた時、手が追いついていかないほどの言葉のひらめきに、私は天才だ!と躍り上がった。つまり、ここでやめたら天才じゃない。根気こそが天才なのだ、という天才のあこがれる凡才の意地が、どうも力になったらしい。